【実務】
本患者は、重症筋無力症と診断されており、治療薬として可逆的コリンエステラーゼ(ChE)阻害薬であるピリドスチグミン臭化物錠を服用していた。重症筋無力症患者では、症状の重篤かつ急速な悪化が見られる場合がある(クリーゼ)。クリーゼには、ChE阻害薬不足による筋無力性のクリーゼと、過剰によるコリン作動性クリーゼがある。本患者は、エドロホニウム塩化物注射液の投与後に症状の悪化が見られたことから、ピリドスチグミン臭化物錠の過剰作用によるコリン作動性クリーゼが疑われる。なお、本患者で見られる発汗は汗腺のM3受容体、腹痛は内臓平滑筋のM3受容体に対する過剰な刺激による症状と考えられる。そのため、適切な処置として、原因薬物であるピリドスチグミン臭化物錠の中止を行うとともに、ムスカリン受容体遮断薬であるアトロピン硫酸塩注射液の追加投与を行って症状を回復させ、また、今後の治療継続には、ピリドスチグミン臭化物錠を減量する必要がある。
なお、ChE阻害薬であるエドロホニウム塩化物注射液やネオスチグミンメチル硫酸塩注射液の追加投与、ピリドスチグミン臭化物錠の増量により、コリン作動性クリーゼが増悪するおそれがある。