シャントエコーの頻度について-保険請求を踏まえて(DeepSearch)
シャントエコー検査の頻度と診療報酬制度の実際:2020年「3カ月ルール」以降の実施運用・医学的例外・保険請求実務の詳細解析
はじめに
日本の血液透析患者は高齢化・長期化が進み、バスキュラーアクセス(VA:シャント)維持への要求が高まっています。VAの維持には適切なモニタリングとトラブル早期発見が不可欠であり、これを支えるのが超音波(エコー)検査、いわゆる“シャントエコー”です。2020年の診療報酬改定(令和2年度)では「3カ月ルール」とその例外規定が大きな転換点となり、シャントエコーの実施頻度や請求ルール、施設運用実態に大きく影響を及ぼしました。本稿では、診療報酬制度・請求ルール・医学的エビデンス、現場運用・各種関連ガイドラインの整合性、制度課題・今後の方向性について、現時点(2025年10月)で入手可能な日本語情報を徹底分析し、シャントエコーの現場的実施・運用の全貌を明らかにします。
1. 2020年診療報酬改定における「3カ月ルール」とその意義
1-1 背景とルール概要
2020年4月の診療報酬改定において、経皮的シャント拡張術・血栓除去術(PTA,
K616-4)等のVAIVT関連の点数が18,080点から12,000点へと減額されると同時に、「3カ月ルール(90日ルール)」が導入されました。これにより、基本的には3カ月に1回のみ算定可能となり、3カ月未満での再算定には厳しい制限が設けられました。
ただし、医学的根拠が明確なシャント障害例(閉塞や血流量異常)が存在する場合には例外として3カ月未満でも1回限り再算定可能となりました。この点は臨床現場の声や患者アウトカム重視の観点から、従来施行回数の制限によって適切な治療ができなかった事態への改善として評価されています。
1-2 「3カ月ルール」の診療報酬制度表
この表は、制度改革がシャントエコー(D215超音波検査)とPTAの頻度・点数・請求実務にどのように直結するかを端的にまとめたものです。
2. 医学的例外条件と再算定要件の厳格化
2-1 例外の根拠規定
2020年の「3カ月ルール」における例外は下記のいずれかを医学的根拠として診療報酬明細書の摘要欄に明記することで認められます。
それぞれのフローや記録例もレセプト電算処理用コードや医師記載例とともに提示されています。なお3カ月未満で2回以上行う場合、3回目以降は材料費も算定不可となるため注意が必要です。
2-2 FV・RIによる血流機能評価
エコーで得られる主な指標:
これらは日本透析医学会ガイドラインでも基準値が示されており、現場レベルでもFV・RIはシャントエコーの判定・請求に不可欠です「FV<350mL/minは治療適応」「FV<500mL/minなどは経過観察」とする具体的な運用基準例も報告されています。
3. D215超音波検査(断層撮影法)の算定規定の実際
3-1 D215の算定点数・頻度・加算条件
検査で得た主な所見は診療録または専用文書をカルテに記録、医師以外が施行した際は医師が内容確認し記載が必要。画像も保存添付必須です。パルスドプラ加算は血流診断の目的で施行された場合に限り加算可能とされます(所定施設基準必須)。
3-2 併用算定・逓減ルール
複数部位を同一日に検査すると計算上損をする場合もあるため、検査計画に要配慮です。
4. 保険審査返戻・査定の現場基準と実例
4-1 査定理由と典型事例
審査取り組み姿勢として「一律査定は困難、必要性詳記で認容(詳記請求)」「縦覧点検で頻回算定の症例は返戻・詳記請求」とする県が多数を占めるなど地域差が顕著です。
5. 全国透析施設・都道府県別での運用実態と地域差
5-1 施設実態アンケート・調査データ
2023年滋賀医大調査によれば、同県内で8割以上の透析施設がシャントエコーを定期・トラブル対応の両方で活用し、週1-5件が最頻度ですが、週20件以上施行例もあり、運用実態には大きなばらつきがあります。医師、臨床検査技師だけでなく、看護師・臨床工学技士が主担当を担うケースも目立ちます。
検査件数と患者数には弱い相関があり(R²=0.23, P=0.003)、検査件数とエコー担当スタッフ人数の間には中程度の相関(R²=0.45,
P<0.001)があります。すなわち、スタッフ体制が拡充されるほど、検査頻度を増やすことができます。
5-2 都道府県ごとの審査・請求取り扱いの違い
地域運用実態は、学会・審査委員会が全国アンケートを通じて情報共有・是正努力を行っているものの、地域独自ルールや審査解釈の運用差は残存しています。
6. 臨床工学技士によるシャントエコー施行・請求の法的整理と実態
6-1 制度運用の進展
2021年10月以降、法解釈の明確化により臨床工学技士(CE)によるシャントエコー施行が診療報酬対象として公式に認められるようになりました。ただし、「医師の具体的指示の下で」「必要な教育・研修を修了したCEによる施行」「実施内容・画像・所見等の診療録記載」「施設独自の連携体制・プロトコル遵守」が必須条件です。
6-2 請求・査定の実際
多施設調査では、CEシングルライセンスだけのエコー実施が約8割を占めており、シャントエコーの役割分担の現場実態は加速度的に進んでいます。しかし診療報酬算定上の記録要件を満たさない場合請求不可(もしくは査定)となるため、教育徹底や標準化が求められています。
7. 日本透析医学会ガイドラインの推奨と現場整合性
7-1 ガイドラインによる指標・推奨
2011年および2024年の日本透析医学会ガイドラインでは、AVF(自己血管)・AVG(人工血管)ともに「定期的なVA血流量測定」と「RI・狭窄率評価」による総合的サーベイランス・モニタリングを推奨しています。
規定値を満たさない場合や、FV/RI等に異常を認める場合は臨床的に治療適応も検討します。また、VA管理の基本は「毎回の理学的所見」「異常発見時のエコー→DSA→PTA(治療)」の流れとなります。
8. 2012年診療報酬改定とルール変更史
2012年の診療報酬改定(平成24年度)で当該「3カ月ルール」は新設され、K616-4
PTAの頻回算定制限が登場しました。いかなる医学的適応があっても3カ月未満の再治療例は算定不可となり、材料費も請求不可という非常に厳しい制限が一時期課されました。
この制度設計は、施設経営や患者ケア双方に大きな影響をもたらし、長年にわたり透析現場から見直しの要望が強く出され続けてきた背景を持ちます。2020年改定では部分的緩和措置(“閉塞例または血流・RI異常なら再算定1回許容”)が導入され、現場実情との接点が大きく拡大しました。
9. 新規デバイス(DCB,
ステントグラフト)導入とエコー運用変化
新たな治療デバイスとして“薬剤コーティングバルーン(DCB)”や“ステントグラフト”などが登場しています。DCBの適正使用指針では「他治療優先の吟味」「50%以上狭窄・病変長10cm以下」「重篤な分岐病変・解離がない」「術者・施設要件厳守」「全症例レジストリー登録」等が挙げられており、術前・術後評価へのエコーの活用が必須要素と位置付けられます。
適正手当を欠いた請求や術者基準・記録不備は“返戻”対象となります。高齢患者にも低侵襲で入院回数を削減できる等、施設経営と患者QOL両面でエコーの活用メリットは意義を増しています。
10. 診療報酬制度とシャントエコー頻度の関係:まとめ表
11. シャントエコー施行頻度と透析患者アウトカム
11-1 頻度とアウトカム改善
シャントエコー高頻度施行は、VAトラブル早期発見・閉塞回避・開存率向上に繋がりうるとのエビデンスがあります。血流量500mL/min未満または20%以上の減少・RI>0.6といった基準を用いることで治療介入の最適化が図れるため、不必要な治療の抑制・患者QOL改善・医療経済への正の効果も期待できます。
ただし、「月1回のルーチンエコーが全例に必要とは限らず、理学所見やトラブル症例選択の上で、適切な施行頻度を守る」ことが重要との指摘も多いです。
11-2 施行頻度(施設実態例)
12. レセプト記載要件と請求手続き
12-1 エコー請求必須記載事項
12-2 請求実務・誤り事例
13. 他部位検査との併用算定ルール
D215算定は同一部位について原則1回のみ。胸腹部・頭頸部・四肢・末梢血管等、いかに別部位でも同一日に同じ方法で施行した場合主たる検査のみ算定。例外は心エコー・腹部エコー等異法併用時ですが、複数部位検査は主たる1件のみ請求(特殊例除く)。
14. 制度上の課題と今後の展望
14-1 主要課題
14-2 制度改定の方向
15. まとめ・実践的提言
シャントエコーの頻度管理は、診療報酬制度・ガイドライン医学的根拠・現場実運用・審査委員会対応の「四位一体」が必要です。2020年以降の「3カ月ルール+エコー異常例等例外加算」制度は、透析患者アウトカム重視・医療経済両視点から一定の合理化を示しましたが、地域間で運用差や査定返戻などの新たな課題も出ています。
現場では、医学的根拠(FV・RI値等)を基にした適正施行、所見・画像・指示記録の徹底、都道府県審査委員会・ガイドライン動向への随時アップデート、そして多職種連携・タスクシフトに沿った適切な請求オペレーションが必須です。
今後も制度変更やエビデンス蓄積が進むため、エコー施行体制や請求フローの見直しを常に行い、シャントエコーの頻度管理と透析医療の質向上を並行して進める姿勢が求められます。
本稿は2025年10月時点の診療報酬およびエコー運用の公式文献・現場調査・ガイドライン・保険審査事例・学会資料等に基づき、日本の制度・実態に即して構成しています。最新の制度情報や地域運用、査定基準の確認については各医療施設・審査委員会・関連学会による公式通達・資料等もあわせて参照してください。