シャントエコーはPTA術前術後で保険で認められますか
PTA(経皮的シャント拡張術・血栓除去術)における術前・術後のシャントエコー(超音波検査)の保険算定要件~令和6年度診療報酬改定を踏まえて~
はじめに
経皮的シャント拡張術・血栓除去術(PTA)は、維持血液透析患者のバスキュラーアクセス(VA)機能不全に対し実施される重要な治療法です。これに併せて行われる術前・術後のシャントエコーによる評価は、治療適応の決定や効果判定の客観的根拠となり、全国各地の医療現場で日常的に実施されています。保険算定の現場では、令和6年度診療報酬改定、および厚生労働省の通知・疑義解釈をもとに、厳格な審査基準と記載要件が求められています。
本稿では、令和6年度最新の診療報酬体系および関連通知、公式QA、実際の審査取扱、医学的ガイドライン等を統合し、【保険算定要件】【算定除外要件】【摘要記載方法】【回数制限】【全国・新潟市の運用】【ガイドライン根拠】【今後の動向】まで多角的・詳細に解説します。
1. PTA術前・術後シャントエコーの医療的意義と保険制度における位置付け
医療現場において、PTA(経皮的シャント拡張術・血栓除去術)の術前・術後にシャントエコー(超音波検査)を行う目的は以下のように明確です。
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術前エコー:VA(バスキュラーアクセス)の狭窄部位、長さ、程度、血流量(Flow
Volume, FV)、血管抵抗指数(RI)
などを定量・定性的に評価し、手技選択や予定治療範囲の指標とします。
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術後エコー:拡張術や血栓除去術の効果(血流改善、残存狭窄や再閉塞の有無)の確認のみならず、合併症の早期発見や以降の管理方針決定の根拠となります。
近年、日本透析医学会や日本超音波医学会が示すVA機能管理ガイドライン・標準的評価法でも、シャントエコーの適切なタイミング(術前・術後)での実施は強く推奨されています。
2. 令和6年度
診療報酬改定によるK616‐4経皮的シャント拡張術・血栓除去術の算定体系
2.1 K616-4の点数体系と告示内容
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K616‐4 経皮的シャント拡張術・血栓除去術:
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1 初回 12,000点
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2 上記実施後3月(90日)以内に実施する場合 12,000点
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注記・通知:
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「手術に伴う画像診断および検査の費用は算定しない」
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「1」は3月(算定日起算90日)に1回に限り算定
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3月以内の再施行は、閉塞または超音波でFV400ml以下・RI0.6以上時など特定要件を満たす場合のみ「2」を1回限度で算定可能
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該当要件を満たす医学的根拠を診療報酬明細書摘要欄に記載することが必須
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「2」を算定する場合は、前回算定日(他医療機関含)の摘要欄記載も必須
表: K616-4に係る術前・術後シャントエコーの算定要件(概要)
この表は、令和6年度診療報酬改定に基づき示されている最新の運用要件を要約したものです。
3. 保険算定が認められる具体的条件【公式資料の解説と分析】
3.1 算定が認められる基本的条件
1. 対象手技・検査
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K616-4 経皮的シャント拡張術・血栓除去術に関係する超音波検査であること
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術前・術後いずれか、または両方に実施されるシャントエコー(断層撮影法+パルスドプラ法加算含む)が該当する
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検査目的が明確(術前評価・術後効果判定)であり、治療判断や安全管理等に資するものであること
2. 医学的根拠の記載
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シャント部の狭窄・閉塞疑いを示す身体所見や症状(脱血不良、静脈圧上昇、穿刺困難等)、または超音波でFV低下・RI高値など、医学的にエコー検査が必要な根拠がある場合。
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これらの医学的根拠を、診療報酬明細書の摘要欄(電子レセプト等含む)に具体的に記載することが必須。
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例:術前評価でシャント血流量FV=350ml/min、RI=0.70、または血栓性閉塞認め備考記載等
3. 算定回数と期間制限(3ヶ月ルール)
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シャントPTAは3ヶ月(90日)に1回が原則
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3ヶ月以内に再施行を要する場合、透析シャント閉塞や超音波所見(FV400ml以下、RI0.6以上等)のみ追加で1回算定可
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同一目的で3ヶ月内に重複請求は不可。3回目からは材料費のみ算定可等厳格審査
4. 地域運用と全国統一性
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社会保険診療報酬支払基金・国民健康保険中央会等の審査情報提供事例により、地域差なく全国的に同一基準で運用
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新潟県新潟市でも原則全国の基準と差異なく審査される(公式通知等に準拠)
3.2 算定が認められる“個別の医学的根拠”の例
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血液透析時のシャントトラブル症状(脱血不良、静脈圧異常、穿刺困難など)があること
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超音波で狭窄・閉塞所見(FV400ml/min以下・RI0.6以上等)の確認
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PTA中の血流再開不良や拡張効果不十分例で術後エコー追加評価が不可欠な場合
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手術部位の病態が両側や複数部位(左右手首等)異なる場合。それぞれ明記すれば個別算定可
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合併症疑いや治療の妥当性判断(静脈高血圧・スチール症候群等)で追加検査が必要と判断された場合
4. 保険算定が認められない条件(算定除外要件)
4.1 認められないケースの典型例
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術前・術後以外の日常定期フォロー・単なるスクリーニング目的のシャントエコー検査
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担当者の主観的判断や漫然とした定期検査の場合、医学的根拠が明記されていない場合、審査で否認される
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摘要欄に目的や根拠が正確に記載されていない場合、もしくは空欄の場合
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同一患者への同一部位検査を3ヶ月内に複数回行い、明確な理由記載および要件を満たさない場合
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PTAと全く関係のない検査(例えば腹部エコー、心臓エコー等)として請求した場合や明らかに重複算定時
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PTA術材料の複数本請求や必要性の不記載の場合(カテーテル・ガイドワイヤー2本以上など)
4.2 保険適用外となる場合の根拠
これらについては、【厚生労働省の疑義解釈資料】【支払基金の公開統一事例】【国保連合会
審査情報提供事例】等でも、明確に否認・減点の可能性が示されています。医学的な必要性なしに検査を繰り返すこと、形式的・機械的な請求、および摘要欄記載不備は非常に多い否認要因です。
5. 摘要欄への医学的根拠記載方法と具体的記載例
5.1 基本原則
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「何の目的で、どのタイミングで、その検査がどのような医学的必要性にもとづいて行われたのか」を端的に記載することが求められます
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数値評価ができる場合は、血流量(FV)、血管抵抗指数(RI)などの値記載も推奨
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再手術・複数回施行の場合は、前回算定日、前回部位、今回必要な医学的根拠それぞれを漏れなく記載
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電子レセプト(診療報酬明細書)用語辞書・コードにも準拠
5.2 主な記載例(令和6年度通知・疑義解釈・ガイドライン準拠)
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術前評価の場合
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「K616-4施行前評価のためシャントエコー実施」
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「術前評価として上腕動脈血流量FV:340ml/min、RI:0.71、PTA適応判断目的」
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「狭窄部位同定目的にてシャントエコー断層撮影・パルスドプラ法併用」
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術後評価の場合
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「K616-4施行後状態確認のためシャントエコー実施」
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「PTA術後、血流再開判定目的、FV:540ml/min、RI:0.58」
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「術後シャント部血流量および狭窄径再評価」
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再施行時・再狭窄時等
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「再狭窄疑いのため再度シャントエコー施行(FV顕著低下、脱血不良)」
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「脱血不良のため、狭窄病変の有無評価目的にシャントエコー実施」
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その他(症候学的根拠併記例)
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「静脈高血圧症疑いのため、中心静脈領域まで走査し責任病変検索」
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「スチール症候群疑いのため、吻合部より末梢動脈血流評価」
こうした記載例は公式事務連絡、診療点数表解説、各県国保連・支払基金の査定事例、さらに各種医学会ガイドラインにも複数例が示されています。
表:摘要記載例テンプレート一覧
6. 算定回数制限と3ヶ月ルールの法的解釈・具体運用
6.1 回数制限の根拠
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K616-4 PTAは原則「1患者あたり3ヶ月(90日)に1回」が算定上限
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手技自体の施行は診療上必要に応じて複数回行えるが、算定としては公式に2回目(「2」)は「閉塞」または「FV
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3回目以降は回数超過扱いで手術点数・材料費等の算定も不可
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算定日の起算点は“前回算定日起算90日”(暦月ではない)
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令和2年4月16日付事務連絡で、暦月起算ではなく算定日起算が明確化
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複数医療機関間(紹介・転院など)の算定日も合算対象
6.2 複数部位・複数手技の場合
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手術部位が異なる場合、必要性を明確にすれば個別算定も可
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同一部位での重複算定は不可・重複した場合は査定・返戻対象となる
6.3 特例・救済措置
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血管病変の急速な進行や合併症等により、90日内に再施行する必要がある場合も、公式に定められた条件を満たす場合のみ追加1回算定
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単なる日常管理目的や明確な根拠なき請求の場合は否認措置
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材料費(カテ・ガイドワイヤー等)も、3回目以降は算定可否が公式審査事例で厳格化
7. 厚生労働省疑義解釈・事務連絡等の取り扱い
7.1 厚生労働省公式通知・疑義解釈資料のポイント
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疑義解釈資料(例えば令和6年5月17日、その5等)や通知、留意事項通知によって、K616-4の適用条件、必要な摘要記載の細則、算定回数制限、材料費等の扱いが詳細に示されている
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審査支払機関(支払基金・国保連等)は、これら公式事務連絡に則り査定を行う
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疑義解釈事例等は厚労省サイトおよび審査機関(支払基金・国保中央会)等にて公表されており、全国で統一的な審査運用が進められている
7.2 具体的なQ&A要旨
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「K616-4は3月に1回に限り算定」であり、“3月”の起算点は算定日を含めて90日間
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3ヶ月以内の重複算定(2回目)は、閉塞またはFV400ml/min以下・RI0.6以上で根拠所見が摘要欄記載されていれば1回限度で算定可。3回目以降は材料費等も算定不可
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法的根拠や医学的根拠なき算定は返戻・査定
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他院算定や前回算定日、部位等の記載も不可欠
8. 社会保険診療報酬支払基金・国保連合会での審査動向
8.1 公開事例・支払基金の運用
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「診療報酬点数表」「厚労省通知」「公開審査事例」に即して実施。個別の医学的必要性・摘要記載は必須条件
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3ヶ月ルール厳守(誤って複数回請求、記載不備は査定リスク大)
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全県レベルでの運用情報共有。新潟県(新潟市)でも基本的には全国の基準に準拠した審査を実施
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査定例や否認例(複数手術時、主たる手技以外算定、重複請求等)は公式事例や業界Webで多数解説有
9. 新潟県新潟市での地域運用事例と全国比較
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国保連合会・支払基金支部での実際の審査運用も厚生労働省通知・公開事例に準拠。独自の地域ルール、差異は原則認めず
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新潟県内医療機関でのシャントエコーマッピング・地域連携なども、保険算定要件順守で算定が認められている(新潟大学医院ネットワーク等)
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地域医療連携ネットワークや、シャントエコーアプリ(VASMAP)等の導入も進んでいるが、それらも「エビデンスベース・根拠明記」が算定要件となっている
10. 全国的ガイドライン・バスキュラアクセス監視基準との立ち位置
10.1 日本透析医学会/日本超音波医学会ガイドライン
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“VA機能モニタリングにおけるエコー評価”の標準化(FV・RI・形態の定期的チェック)が広く推奨されている
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AVF:FV0.6、などを狭窄疑い基準とする
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PTA適応判断、術後評価、合併症疑いへの活用が記載され、保険算定根拠となる
10.2 国際的ガイドラインとの比較
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欧米(NKF-DOQI等)でも同様の流量基準に基づきVA管理の根拠とされており、日本国内の取扱も国際基準とほぼ整合
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保険算定要件は欧米に比し技術的詳細・記載法に厳格性が特徴
11. 手術伴う画像診断・検査費用の算定可否
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K616-4に伴い実施されるシャントエコー(術前・術後)は、「画像診断(D215超音波検査)」として条件付きで算定可
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ただし診療報酬点数表上「手術に伴う画像診断及び検査の費用は算定しない」注記があり、別算定可否には要注意
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パルスドプラ法を併用し、かつ摘要欄に根拠を明記すれば加算(D215-2等)も取得可能
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算定の際には記録(画像保存・レポート添付)が必須であり、査定リスク低減のためにも経過や数値、所見の診療録反映が必要
表:D215-2(超音波検査)と加算・回数制限
12. 診療報酬明細書 記載例テンプレート・電子レセプトコード
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診療報酬明細書摘要欄や電子レセプトシステムでは、用途(術前・術後)、要件充足(FV、RI、閉塞等)、場合により加算コードも記載
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前回算定日や対象部位、2回目算定時の詳細理由明記も求められる
主なテンプレート例
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術前評価目的
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「K616-4施行前評価のためシャントエコー実施(FV:370ml/min、RI:0.68)」
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術後評価目的
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「K616-4施行後状態確認のため血流量再評価(FV:580ml/min、RI:0.55改善確認)」
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3ヶ月内再施行時
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「再狭窄疑いによりFV:340→290ml/minへ低下、術前評価目的」
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前回算定日記載
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「前回算定年月日(経皮的シャント拡張術・血栓除去術):令和6年5月10日」
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パルスドプラ加算時
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「FV測定(パルスドプラ法併用)、血流不良により再狭窄疑い評価」
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材料費複数請求時特記事項
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「蛇行・穿孔リスク高いためガイドワイヤー2本使用、必要性記載」
13. 実臨床・現場運用上の注意事項
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診療報酬請求前に必ず記載漏れ・回数超過・他院重複等の確認
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シャントエコーを臨床工学技士等の他職種が実施する場合も、医師の指示書や教育履歴等を診療録で管理し「医学的根拠・タイミング・実施者」を正確に記録
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D215関連で複数部位同日検査時は“主たる方法”のみ算定(重複算定不可)
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AI搭載エコープラットフォームやデジタル連携等新技術も、運用本部指示・現場ガイドラインに準拠した記載マナーと審査対応必須
14.
全国的ガイドライン・自治体(新潟県等)における審査・定着状況
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日本透析医会審査委員会報告によれば、原則“狭窄・閉塞疑いがあれば両方(術前・術後)各月1回認める”との方向
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東北〜関東以北(新潟含む)では術前後に分けて2回診療報酬を得る事例も多く、適切な記載なら両方認める傾向
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地域連携システム用VAMAPや電子カルテにエコー所見(FV、RI、病変位置etc.)も組み込まれつつある
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一部自治体は通知解釈に時差や運用差が生じうるが、公開事例等を根拠に是正運用が進んでいる
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今後も毎年度改定・事務連絡等による要件詳細化が予想されるため、情報アップデートと認知徹底が重要
15. バスキュラアクセス標準的超音波評価法や診療ガイドライン(JSDT・JSUM等)との連動
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日本透析医学会(JSDT)、日本超音波医学会(JSUM)による標準的評価法で、VA超音波検査者の守るべき検査手順や判定基準(FV、RIほか)が広く推奨
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**検査根拠の明記や結果の診療録(電子カルテ)添付も“適正請求”の為には必須】
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医学的根拠として用いるべき計測値・解釈論(AVF: FV<500、AVG:
FV<650、RI>0.6など)もガイドラインに記載されており、要点を摘要欄等に反映させる必要がある
16. 令和6年度診療報酬改定通知・関連省令・告示の収集
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診療報酬の算定方法の一部改正に伴う実施上の留意事項通知(保医発0305第4号)や、「特定診療報酬算定医療機器の定義等について」「適用通知」など、公式資料にすべての要件が明記
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省令・告示等でも具体的コード、摘要記載要領まで詳細に示されており、これに則し請求を作成・管理することが、将来的な返戻・査定リスクの根絶には不可欠
17. まとめ:現行最適実践への統合的提言
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シャントPTA術前後の超音波検査(エコー)は、令和6年度改定下でも「医学的根拠」を明記し適切な回数制御を守れば、全国どこでも(新潟県新潟市含む)保険算定は認められる
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査定・返戻を避けるため、診療報酬算定ルール(3ヶ月1回・摘要記載必須)に厳正に従うことが肝心である
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ガイドラインや審査事例を踏まえ、“数値・所見の明記”“目的・理由の明文化”を必ず行い、審査支払機関や自治体独自の補足指導もチェックし、最新通知にも即応する体制整備が望ましい
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今後はAI・DX等による記録効率化も導入され、より客観的・標準化されたシャント管理と診療報酬請求の両立が全国的に普及していくと見込まれる
18. 保険算定要件・記載例・制限等の総合表
おわりに
本稿では、令和6年度診療報酬改定の最新エビデンス、および厚労省・診療報酬審査基金・ガイドライン・新潟市地区事例など多方面にわたる公式取扱・現場事例を網羅解説しました。今後も医療現場は診療報酬制度の進化とともに、その趣旨を踏まえた質の高い評価・記録を推進することが重要です。全ての医療従事者が正確・透明な保険請求、患者中心の診療を両立できるよう、ルールの再確認と実務改善に継続して取り組むことが求められます。